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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)7179号 判決

大阪市東成区玉津一丁目九番二八号

原告

東邦製鏡株式会社

右代表者代表取締役

井上圭司

右訴訟代理人弁護士

喜治榮一郎

大阪府八尾市楠根町二丁目二七番地一三

被告

有限会社清宮貿易

右代表者代表取締役

清宮洋治

大阪府八尾市大字竹渕四四一番地の一

被告

株式会社ナカヨシ

右代表者代表取締役

中島義國

右両名訴訟代理人弁護士

小松陽一郎

右訴訟復代理人弁護士

池下利男

右輔佐人弁理士

藤本昇

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  請求の趣旨

一  被告らは、別紙目録(二)記載の各商品(以下「被告商品」という)を製造、販売してはならない。

二  被告らは、連帯して原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成六年七月二九日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  仮執行の宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  別紙目録(一)記載の各商品(商品名「おもしろキーホルダー」のうちのシャケ、メザシ、タコ。以下「原告商品」という)は、訴外マスダサンプルこと増田直樹(以下「増田」という)が発案し製作していたものであるが、原告は、平成三年五月頃、増田から原告商品の納入を受けてその販売を開始し、平成五年一〇月、増田と独占的販売契約を締結して、以来原告商品を独占的に販売している。

2  被告らは、共同して、被告有限会社清宮貿易(以下「被告清宮貿易」という)において原告商品の形態を模倣して被告商品を製造し、被告株式会社ナカヨシ(以下「被告ナカヨシ」という)において被告清宮貿易からこれを買い受けて各地で販売し、原告の営業上の利益を侵害している。

被告らの右行為は、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡するものとして、不正競争防止法二条一項三号所定の不正競争行為に該当する。

3  仮に右2の主張が認められないとしても、

(一) 原告は、右1のとおり、平成三年五月頃増田から原告商品の納入を受けて販売を開始し、平成五年一〇月に増田と独占的販売契約を締結して、同年一一月からは主として北海道、北関東の有名観光地やデパート等で大々的に販売を開始し、かなりの範囲で販路を開拓したものである。原告商品の販売先は別紙販売先一覧表(その1)及び同(その2)記載のとおり一三二社に上り、販売数量は月間約三〇〇〇個(平成六年度平均)に及ぶものである。

その結果、原告商品は、その宣伝、販売拡充等により平成六年までにはその商品形態が原告の商品であるとの出所表示機能を取得し、これが周知性を取得するに至っている。

(二) しかるに、被告らは、共同して故意に原告商品の形態を模倣した被告商品を製造、販売し、そのため取引先及び需要者に原告商品との誤認混同を生じさせ、原告の営業上の利益を侵害している。

(三) 被告らの右行為は、不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争行為に該当する。

4  仮に右3の主張も認められないとしても、被告らは、微妙な差異を除けば原告商品の形態と寸分違わぬ完全な模倣商品(コピー商品)である被告商品を、原告商品の販売地域と競合する地域で廉価で販売したものであっで、被告らの右行為は、取引における公正かつ自由な競争として許容される範囲を甚だしく逸脱するものとして、民法七〇九条所定の不法行為に該当するものといわなければならない(被告商品が原告商品より小型であるのは、原告商品をそのままコピーしたためである)。

5  被告らは、被告商品の販売により五〇〇万円以上の利益を得た。

仮に被告ら主張のとおり被告商品は輸入したものであるとしても、原告は、以下のとおり被告らによる被告商品の販売により五〇〇万円を超える損害を被った。

(一)(1) 被告ナカヨシは、被告商品の「シャケ」「メザシ」をそれぞれ一万五〇〇〇個、「タコ」を一万個、合計四万個を単価四七セント(当時の為替レートで五七円四〇銭)で輸入し、これを訴外パルタック株式会社へ一個当たり二六〇円で販売した。

被告は、右販売数量の四六・九四%が返品された旨主張するが、信用し難い。仮にそのとおりだとしても、これは主として原告からの警告の結果回収したものであって、右返品の事実は原告の被った損害額の算定に影響しないというべきである。

(2) したがって、被告商品の販売による一個当たりの粗利益は、右販売価格二六〇円から、右輸入買入価格五七円四〇銭及び包装費等の諸経費四四円六〇銭を控除した一五八円であり、粗利益の合計額は、これに販売個数四万個を乗じた六三二万円となり、その他諸経費を考慮しても純利益は六〇〇万円を下らない。

被告は、被告商品の販売に要した仕入原価を除く諸経費は一個当たり八三円八七銭であると主張するが、原告が業界トップの大日本印刷株式会社で現物を提供して調査したところ、右のとおり一個当たり四四円六〇銭ということであった(甲三五の1・2)。

(二) 一方、原告は、原告商品と同様の商品を一〇〇社以上に対し月間合計一万五〇〇〇個程度販売し、近い将来ローソンやスーパーマーケット等への販路拡大も考慮していたが、被告らの不正行為によって信用を失墜し、キャンセルや仕入手控えに加え右販路拡大の挫折によりやはり六〇〇万円から七〇〇万円の損害を被っているのである。

6  よって、原告は被告らに対し、

〈1〉 主位的に、不正競争防止法二条一項三号、三条、四条に基づき、被告商品の製造、販売の差止め及び損害賠償として金五〇〇万円

〈2〉 予備的に、同法二条一項一号、三条、四条に基づき、被告商品の製造、販売の差止め及び損害賠償として金五〇〇万円、

〈3〉 更に予備的に、不法行為に基づく損害賠償として金五〇〇万円

及び右金員に対する訴状送達の日の翌日である平成六年七月二九日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

1  請求原因1の事実は否認する。原告商品と同じアイデアの食品サンプルを使用したキーホルダーの創始者は、食品サンプルメーカーとして世界一といわれている株式会社いわさきであり、同社は、既に昭和六〇年から大々的にこれを販売してきている。

2  同2の事実中、被告ナカヨシが平成六年一月二六日以降被告商品を販売したことがあることは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

被告清宮貿易は、被告ナカヨシが被告商品を輸入するに際し、交渉の通訳及び輸入手続の一部の手伝いをしただけであって、被告商品を取り扱ったことはなく、被告ナカヨシとの共謀も過失もなかった。

被告ナカヨシが被告商品の販売を開始したのは右のとおり平成六年一月二六日であるところ、不正競争行為に対する差止請求権及び損害賠償請求権を定めた不正競争防止法三条及び四条本文の規定は、同法二条一項三号所定のいわゆる商品形態模倣行為については、同行為が平成六年四月三〇日以前に開始した行為を継続するものであるときは適用されないから(平成五年法律第四七号附則三条二号)、同法二条一項三号所定の不正競争行為に該当するとして被告商品の販売の差止め及び損害賠償を求める原告の請求は失当である。

また、被告ナカヨシは、平成六年三月一五日以降に返品された被告商品も既に廃棄しており、在庫は全くなく、今後新たに被告商品を輸入、販売等する意思は全くないから、この点でも差止請求は理由がない。

3(一)  同3(一)前段の事実は否認し、同後段の、原告商品はその宣伝、販売拡充等により平成六年までにはその商品形態が原告の商品であるとの出所表示機能を取得しこれが周知性を取得するに至っているとの主張は争う。

まず、商品形態について第二次的に出所表示機能が認められるためには、識別力を有する形態(形状)でなければならないところ、原告商品は、シャケの切れ端、メザシ、タコの足の一部を実物に似せて合成樹脂で製作しているものであり、これらの部分が原告商品の要部であるところ、この形態自体には何ら独創性がなく識別力がないことは明らかである。実物そっくりのものを臘や合成樹脂で作ったものが、食堂などの料理のディスプレイとして飾られたり、おもちゃとして販売されてきたことは社会常識としてよく知られているところである。

原告商品のキーホルダーの鎖部分も、このような鎖は種々のタイプのものが市場で氾濫しており、それ自体に特徴があるというものではなく、識別力はない。実物そっくりの飾りと鎖を組み合わせたところに特徴があるとの構成を考えてみても、それは単なるアイデアの問題であるから、商品形態の保護の対象となるものではない。

したがって、原告商品の形態が第二次的に出所表示機能を取得する余地はない。

原告商品の販売数量についても、例えば甲第二八号証によれば、原告商品の販売個数合計四二三八個(合計一二二万九六八五円)であり、そのうち「シャケ」は二〇九五個(六〇万六二三五円)、「メザシ」は九六三個(二八万一五五〇円)、「タコ」は一一八〇個(三四万一九〇〇円)にすぎず、しかもその販売先の大部分は北海道のホテル等の土産物売場などのようである。周知性とは、少なくとも一地方において原告の商品として認知されている必要があるところ、右のような販売個数、販売額では到底周知性取得の要件を満たしているとはいえない。

また、原告代表者の供述によれば、原告の販売する「おもしろキーホルダー」(以下「本件キーホルダー」という)は、原告商品を含め二五種類はあるというのに、原告は、そのうちの原告商品、すなわち被告商品に対応する「シャケ」「メザシ」「タコ」の三種類の販売数量を具体的に主張立証しない。更に、原告代表者は、平成五年一〇月頃の本件キーホルダー全部の販売数量は年間一〇万個前後であり、原告商品三種類の販売数量は平成六年度平均で月間約三〇〇〇個であると供述するが、いずれもこれを裏付ける資料の提出はない。

(二)  同3(二)の事実は否認する。

被告商品は、いわゆるホワイトデーのプレゼント用に販売されたものであり、「酒の友」という商品表示が付された包装箱と相まっておしゃれでウィットに富んだ商品として一体性を持たせてあるところに顧客吸引力を有するものであって、キーホルダーのみを販売する原告商品とは全くコンセプトが異なるものであり、被告商品の販売が原告の営業上の利益を侵害するということはない。

(三)  同3(三)の主張は争う。

4  同4の主張は争う。

被告商品は、前記3(二)のとおり、その包装及びこれに付された表示が原告商品と全く異なる上、ローソンでのみ一時的に販売されたものにすぎず、原告商品のように土産物店や観光ホテル等では一切販売されていないから、販売場所が競合することはなかった。

また、原告商品は先行する大手他社(株式会社いわさき)のアイデアを借用したものにすぎず、何ら独創性がないものである。被告商品が原告商品のサンプル部分をコピーしたものであるとしても、原告商品自体が元々実物のコピーにすぎないし、原告商品は増田が製造してきたものであるというのであるから、原告には法的保護に値する営業上の利益は存在しない。そもそも被告商品は、形態そのものも細部は原告商品と異なっており、外観の色も異なっているし(色付けは手作業による)、原告商品の型も当初からは変わっているから、被告商品はいわゆるデッドコピーではない。

被告商品の販売行為は、あくまで営業の自由の範囲内のものであり、不法行為が成立する余地はない。

5  同5冒頭の事実は否認する。

(一) 同5(一)(1)前段の事実は認める。但し、被告ナカヨシは、被告商品(三種類)四万個と同種のキーホルダー一種一万個の合計五万個を販売したが、その合計の返品数は二万三四七二個であり(乙七)、返品率は四六・九四%であったから、最終的に販売された被告商品の個数は四万個の約五三%であったと推測される。

(二) 同5(一)(2)前段の事実は否認する。被告商品の販売に要した仕入原価を除く諸経費は一個当たり八三円八七銭(乙八の1~5)である。右諸経費にはデザイン料、企画料が含まれるものであって、原告が主張する諸経費の額は、できあがっているデザイン等を前提にした材料費にすぎない。

(三) 同5(二)の主張は争う。

理由

一  本件の事実の経緯について

証拠(甲四、五の各1・2、六~二六、二八、三〇の1・2、乙一~三、四の1~10、五の1・2、七、八の1~5、証人増田直樹、同中島修二、原告代表者、被告清宮貿易代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

1  増田は、食品サンプル製造会社に勤めて食品サンプル製造の技術を身につけ、次いで、観光土産物製造卸を業とする会社に勤めた後、平成元年五月頃、「マスダサンプル」の名称で個人で食品サンプルの製造業を営むようになったが、その頃、食品サンプルの色付けの下請をするかたわら、シャケの切り身、メザシ、タコの足など食品の現物とそっくりの食品サンプルを用いてキーホルダーにすることを考えついて本件キーホルダーを製作し、「おもしろキーホルダー」と名付けてその卸販売を開始した。

原告商品は、増田において、シャケ、メザシ、タコの現物に寒天を流して型を取り、右型にパラフィンを流し込み、再度型取りして最後に金型を製作し、その後はこの金型に塩化ビニールを注入して食品サンプルの原形を製造し、これに手作業で色付けをして仕上げるものである。

2  増田は、平成五年一、二月頃から、まとまった注文のある三社ほどのほか、原告にも本件キーホルダーを継続的に卸販売していたが、同年一〇月、原告との間で、本件キーホルダーにつき原告の了承を得たときを除き原告にのみ販売するとの専属契約(甲四の1)を締結し(本件キーホルダーに関する限り、平成六年春頃には原告以外との取引はなくなった)、以後今日まで取引を継続している。

なお、原告と増田との取引の対象となっている本件キーホルダーの種類は、現在では、原告商品三種類のほか、カニ、アスパラ、ギョウザ、目玉焼等二五種類以上に及んでいる。

3  原告は、本件キーホルダーの宣伝活動として、販売先に対し、本件キーホルダーを直接コピー機の上に並べてとったコピーを送付したり、現物の見本を持参したりして注文を勧誘する方法をとっていた。

原告は、平成五年一一月頃から北海道を中心に観光ホテル、土産物店等別紙販売先一覧表(その1)及び同(その2)記載の合計一三二店舗に対し、原告商品を含む本件キーホルダーを卸販売しているところ(小売価格は一個六〇〇円)、原告が増田から原告商品を仕入れた数量は、原告が原告商品の独占的販売を開始した月である平成五年一〇月一日から平成六年九月三〇日までの間で「シャケ」が二万〇五八〇個、「メザシ」が二八二〇個、「タコ」が六三〇〇個であり(後記のとおり被告ナカヨシが被告商品の販売委託をした平成六年二月九日までの間では、それぞれ五〇〇〇個、五〇〇個、二八〇〇個。甲三〇の1)、平成六年一〇月一日から平成七年九月三〇日までの間でそれぞれ一万五八〇二個、一七七〇個、四二八〇個である(甲三〇の2)。

4  被告ナカヨシは、玩具の卸売りを業とする会社であるが、香港所在の商社からサンプルとして送られてきた被告商品を見て、これを輸入してホワイトデーのプレゼント用に国内で販売しようと考え、平成六年一月二六日頃、同被告の系列下の輸入担当部門である中島商店において、単価四七セント(五七円四〇銭)で「シャケ」及び「メザシ」を各一万五〇〇〇個、「タコ」を一万個輸入した。被告ナカヨシは、右輸入に係る被告商品に、企画会社に依頼して一個当たり八三円八七銭の費用で別紙目録(二)添付の写真のようなパッケージを施した上、同年二月九日、株式会社パルタックに対し一個当たり二八〇円で販売委託をした。被告商品は、同社から全国各地の株式会社ダイエーコンビニエンスシステムズの各店(ローソン、サンチェーン等)に出荷され、ホワイトデー関連商品の売出期間である平成六年二月一五日から同年三月一四日の間これらの店頭で一個五〇〇円で販売された。

しかし、被告商品四万個の約四五%が売れ残ったので、右販売期間終了後の同年五月までに被告ナカヨシに返品された。同被告は、原告からクレームを受けたこともあって、これら返品された被告商品をすべて廃棄処分にした。なお、被告ナカヨシにおいて再び被告商品を輸入して販売するという意思はない。

(なお、被告らが被告商品を製造したとの事実は本件全証拠によっても認められない。)

5  玩具等の一般雑貨の輸出入を業とする株式会社清宮貿易の代表者は、被告ナカヨシの依頼を受け、同被告のために、被告商品のサンプルに基づいて香港の商社と交渉してその価格及び納期を決め、その後、被告商品の輸入のための信用状を開設し、輸入通関書類等の必要書類を作成するなどの事務手続をして、被告ナカヨシが被告商品を輸入するについて助力した。

6  本件キーホルダーのように食品サンプルを使用してキーホルダーにすることは、増田よりも早く既に昭和六〇年頃に食品サンプルの大手メーカーである株式会社いわさきが創案・開発したものであり、同社は、同年九月二九日及び一〇月一日に西日本総合展示場において開催された北九州市観光協会主催の「郷土の料理と土産物品展」(乙四の4)に目玉焼、ミカンの切り身、リンゴの切り身等の食品サンプルを使用したキーホルダーを展示し、同年一〇月には大手卸売業者である粧美堂を通じて本格的にその販売を開始した。右形態のキーホルダーについては昭和六一年秋発行の「商工経営ガイド」(乙四の7)において株式会社いわさきが製造しているものとして紹介されたほか、株式会社いわさきも、昭和六二年八月頃には既に右形態のキーホルダーを掲載したカタログを発行している(「タコ」の足をスライスしたものを型取ったもののキーホルダーも掲載されている)。

二  不正競争防止法二条一項三号、三条、四条に基づく請求について

平成五年法律第四七号附則三条二号によれば、同法律による改正後の不正競争防止法の施行日である平成六年五月一日より前に開始した不正競争防止法二条一項三号に該当する行為を継続する行為については、同法三条(差止請求権)、四条本文(損害賠償)の規定は適用されないところ、前記一の4認定のとおり、被告ナカヨシが被告清宮貿易の助力を得て被告商品を輸入したのは平成六年一月二六日頃、被告ナカヨシがその販売委託をしたのは同年二月九日であり、現実に被告商品がローソン等の店頭で販売されたのは同月一五日から同年三月一四日までの間のことであるから、被告ナカヨシの右行為については、右改正後の同法二条一項三号の適用がないことは明らかである。

したがって、不正競争防止法二条一項三号、三条、四条に基づく原告の請求は理由がない。

三  不正競争防止法二条一項一号、三条、四条に基づく請求について

1  商品の形態は、商品の機能を効率的に発揮させる等の目的のために選択されるものであり、本来的に商品の出所を表示することを目的とするものではないが、商品の形態が他の業者の商品と識別しうる独自の特徴を有していて、その商品が一定期間独占的に販売されてきたとか、商品の形態について強力に宣伝広告がされてきたこと等の事情により、第二次的に特定の主体の製造販売する商品であるとの出所表示機能を取得し、この商品表示性を取得した商品の形態が周知性を獲得することがある。そこで、このような見地から原告商品の形態が商品表示性を取得し、右商品形態が周知性を獲得したか否かについて検討する(原告は、原告商品のいずれの点をもって商品形態としての特徴であるとするのか明らかにしないから、原告商品三種類のそれぞれの商品の全体的形態を検討するほかはない)。

2  原告商品は食品の現物から型取りをして製造した食品の現物とそっくりの食品サンプルを使用したキーホルダーであるところ、前記一の6認定のとおり、原告商品を含む本件キーホルダーのように食品サンプルを使用したキーホルダーは、増田が本件キーホルダーを考えついて卸販売を開始する約四年前の昭和六〇年に食品サンプルの大手メーカーである株式会社いわさきが創案・開発したものであり、同社は、同年中に目玉焼、ミカンの切り身、リンゴの切り身等の食品サンプルを使用したキーホルダーを土産物品展に展示した後大手卸売業者を通じて本格的にその販売を開始し、翌昭和六一年秋に発行された「商工経営ガイド」に右形態のキーホルダーが株式会社いわさきの製造にかかるものとして紹介され、また、同社自身も昭和六二年八月頃には既にこれを掲載したカタログを発行しているのである。したがって、食品サンプルを使用したキーホルダーは、原告商品が販売されるかなり前から他社によって創案・開発され、市場にも相当数量出回っていたものであり、原告商品も右キーホルダーと基本的に同じアイデアに基づくものということができる(証人増田直樹は、株式会社いわさきのキーホルダーは、何百何千という食品サンプルを製造する中で、たまたまキーホルダーにできるような食品サンプルにキーチェーンを付けただけであるのに対し、本件キーホルダーは、最初からキーホルダーを作ろうとして作ったものである点で相違すると証言するが、でき上がった商品として同じアイデアに基づくものであることに変わりはない)。そして、使用される食品サンプルは現実の食品とそっくりの形状をしているというだけであって、食品サンプルを使用したキーホルダーとしてはその形態自体に独自の特徴があるというわけではない。

また、前記一の2、3認定のとおり、原告は、平成五年一〇月に増田との間で増田が製造する原告商品を含む本件キーホルダーにつき原告の了承を得たときを除き原告のみに販売するとの専属契約を締結して、同年一一月からこれをほぼ独占的に販売するようになり、平成六年春頃には完全な独占販売となり、その販売先は北海道を中心に観光ホテル、土産物店等一三二店舗であり、原告が増田から仕入れた原告商品の数量は、平成五年一〇月一日から平成六年九月三〇日までの間で「シャケ」が二万〇五八〇個、「メザシ」が二八二〇個、「タコ」が六三〇〇個であり(被告ナカヨシが被告商品の販売委託をした平成六年二月九日までの間では、それぞれ五〇〇〇個、五〇〇個、二八〇〇個)、平成六年一〇月一日から平成七年九月三〇日までの間でそれぞれ一万五八〇二個、一七七〇個、四二八〇個であるから、これに近い数の原告商品が販売先である北海道を中心とする観光ホテル、土産物店等の店頭に並んだものと推認することができる。

しかし、その間に原告が行っていた原告商品を含む本件キーホルダーの宣伝活動としては、販売先に対し、本件キーホルダーを直接コピー機の上に並べてとったコピーを送付したり、現物の見本を持参したりして注文を勧誘するだけであり、その他に格別の宣伝広告をしているとの事実を認めるに足りる証拠はなく、前示のとおり、この種の食品サンプルを使用したキーホルダー自体は昭和六〇年から販売されていたことや食品サンプルを使用したキーホルダーとしては原告商品の形態自体に独自の特徴があるというわけではないことなどを総合すると、右の程度の販売数量、宣伝活動によっては、被告ナカヨシが被告商品の販売委託をした平成六年二月九日の時点においてはもとより、現時点においても、原告商品の商品形態が原告の商品であるとの出所表示機能を取得したものとは到底いえない。

したがって、不正競争防止法二条一項一号、三条、四条に基づく原告の請求も理由がない。

四  民法七〇九条の不法行為に基づく請求について

1  被告商品(検乙一)は、原告商品(検甲一の1~3)と比較して一回り小さいほかは、例えば「シャケ」については切り身の切断面の皺、筋及び骨の形状が、「メザシ」については背中及び頬の形状が、「タコ」についてはその全体的形状のほかイボの個数が、いずれも原告商品と同一であるなど、細部に至るまでほぼ同一形態である(甲一ないし三の各1~4、検甲二ないし四の各1~3)。

したがって、被告商品は、原告商品自体から型取りをして金型を製作し、この金型によって製造したものと推測され、これが原告商品よりも一回り小さいのは、原告商品自体から型取りした型に流し込んだパラフィンの収縮や金型に注入した塩化ビニールの収縮によるものと考えられる(証人増田直樹)。

本件において、被告ナカヨシは、香港の商社から右のように原告商品自体から型取りをして製作した金型によって製造した商品である被告商品を輸入して国内で販売したものであり、被告清宮貿易の代表者は、被告ナカヨシの依頼を受け、同被告のために、右香港の商社と交渉して価格及び納期を決め、信用状を開設し、輸入通関書類等の必要書類を作成するなどの事務手続をして、被告ナカヨシが被告商品を輸入するについて助力したものであるから、仮に、被告らにおいて、被告商品が原告商品自体から型取りをして製作した金型によって製造したものであること(あるいは原告商品の商品形態を模倣したものであること)を知り、又は過失により知らないままこれを輸入した上、原告商品の販売地域と競合する地域においてこれを廉価で販売するなどして原告商品の売上げを減少させたものとすれば、右行為は、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて法的保護に値する他人の営業上の利益を侵害するものとして、民法七〇九条所定の不法行為を構成すると解する余地がある。

2  そこで検討すると、まず、被告商品を輸入しないしはその販売委託をした際、被告商品が原告商品自体から型取りをして製作した金型によって製造したものであること(あるいは原告商品の商品形態を模倣したものであること)を被告らが知っていたと認めるに足りる証拠はない。

次に、被告らにおいて、右事実を知らなかったことについて過失があるか否か検討する。前記一の3認定のとおり、原告は、平成五年一一月頃から北海道を中心とする観光ホテル、土産物店一三二店舗に対して独占的に販売しているものであるが、被告ナカヨシが被告商品を輸入してその販売委託をした平成六年二月九日までの間に、原告が増田から仕入れた原告商品の数量は「シャケ」が五〇〇〇個、「メザシ」が五〇〇個、「タコ」が二八〇〇個にすぎず、しかもこれらの原告商品は北海道を中心とする全国の観光ホテル、土産物店にばらばらに出荷されていたものであり、その宣伝活動も、右のような販売先に対し、原告商品のコピーを送付したり現物の見本を持参したりして注文を勧誘するというだけである。したがって、被告ナカヨシは玩具の卸売業を、被告清宮貿易は玩具等の一般雑貨の輸出入業をそれぞれ営むとはいえ、公示手段が採られているわけでもない原告商品の存在及び形態を当然に知りうるものとはいえず、被告らが原告商品に容易にアクセスできたなどの特段の事情も認められないから、被告商品を輸入しないしはその販売委託をした際、被告らが原告商品の存在及び形態を知らなかったことにつき過失があるということはできず、そうである以上、被告商品が原告商品自体から型取りして製作した金型によって製造したものであること(あるいは原告商品の商品形態を模倣したものであること)を知らなかったことにつき過失があるといえないことはいうまでもない。

3  したがって、被告らに対し民法七〇九条の不法行為に基づき損害賠償を求める原告の請求も、その余の点について判断するまでもなく理由がないというべきである。

五  よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 小出啓子)

(写真〈1〉)

〈省略〉

目録(一)

おもしろキーホルダー(原告製)

1、シャケ 2、メザシ 3、タコ

(裏面写真〈1〉のとおり)

(写真〈2〉)

〈省略〉

目録(二)

キーホルダー(被告製)

1、シャケ 2、メザシ 3、タコ

(裏面写真〈2〉のとおり)

販売先一覧表(その1)

1 東急ハンズ 東京都渋谷区

2 ニュー阿寒ホテル 北海道阿寒町

3 ホテルサンパレス 北海道洞爺湖温泉

4 洞爺パークホテル 北海道洞爺湖温泉

5 株式会社万世閣 北海道洞爺湖温泉

6 株式会社棒二森屋 函館市若松町

7 法華クラブ内梶原商店 函館市本町

8 松岡商店 函館市若松町

9 湯の川グランドホテル 函館市湯の川町

10 株式会社花びしホテル 函館市湯の川温泉

11 オホーツク温根湯ホテル 北海道温根湯温泉

12 オホーツク大沼展望閣 北海道大沼公園

13 マウントピューホテル 北海道層雲峡温泉

14 明治屋ストアー 旭川市宮下通

15 株式会社福屋観光

北海道物産センター千歳店 北海道千歳市

16 株式会社福屋観光

北海道物産センター札幌店 札幌市東区

17 支笏湖観光ホテル 千歳市支笏湖温泉

18 宇須岸の館 函館市元町

19 みやま 苫小牧市日之出町

20 大和 千歳市支笏湖温泉

販売先一覧表(その2)

〈1〉株式会社石丸企画 沖縄 〈2〉観光会館はかた 福岡 〈3〉水前寺観光センター 熊本 〈4〉牛深市商工観光課 長崎 函館温泉ホテル 〈5〉おみやげ遊浜 函館 〈6〉鹿部ロイヤル委託 大沼

〈7〉越後屋デパート 洞爺湖 〈8〉柴田屋 洞爺湖 〈9〉株式会社かどや 洞爺湖 〈10〉定山渓ビューホテ ル 定山渓 〈11〉新山 昭和新山 〈12〉ベア観光 登別温泉

〈13〉登別万世閣 登別温泉 〈14〉登別パークホテル 登別温泉 〈15〉大雪 層雲峡 〈16〉青木商事 旭川 〈17〉株式会社小六 札幌市 〈18〉佐藤民芸 温根湯

〈19〉知床第一ホテル 知床 〈20〉知床グランドホテ ル 知床 〈21〉ニユー北一館 川湯温泉 〈22〉十勝川第一ホテル 十勝川 ホテル水上館 〈23〉森のバザール館 群馬県 〈24〉奥山名産店 静岡

〈25〉黒部苑石の店 宇奈月 〈26〉ゆのくにの森 石川県 〈27〉河鹿荘ロイヤルホ テル 石川県 〈28〉大幸 大阪市 〈29〉徳島県名産店 大阪市 〈30〉有限会社きむら 大阪市

〈31〉KOSHIN京橋店 大阪市 〈32〉ミヨセ商会 大阪市 〈33〉奥ノ坊 有馬温泉 株式会社キディラ 〈34〉ンド梅田店 大阪市 株式会社キディラ 〈35〉ンド名古屋店 名古屋 株式会社キディラ 〈36〉ンド仙台店 仙台

〈37〉戸川商店 長崎県 〈38〉株式会社中丸 広島県 〈39〉かめ福 広島県 〈40〉木島商店 広島県 〈41〉東川物産店 広島県 株式会社全琉ジョ〈42〉ッパーズ 沖縄県

〈43〉東武ホテル 群馬県 〈44〉鈴木屋 群馬県 〈45〉関本土産店 群馬県 〈46〉清進堂 富山県 〈47〉海楽荘 石川県 〈48〉漁仙洞 石川県

〈49〉ぴっころ清里 山梨県 〈50〉FLEX 函館市 函館温泉ホテル 〈51〉遊浜 函館市 〈52〉有限会社高橋商会 函館市 〈53〉ホテル函館ロイヤ ル 函館市 〈54〉石田おみやげ店 大沼公園

〈55〉株式会社フレンドリ ーベア 大沼公園 〈56〉いわぶち 阿寒湖畔 〈57〉青山民芸 洞爺湖 〈58〉岩倉屋本店 昭和新山 高岡民芸 〈59〉サカエヤ 洞爺湖 ホテル大黒 〈60〉せせらぎ亭 石川県

〈61〉白山菖蒲亭 石川県 〈62〉ふるさと館 石川県 〈63〉だるまや 石川県 〈64〉株式会社三島商会 大阪市 〈65〉古泉閣 有馬温泉 〈66〉(伊豆工房) 神崎淳

〈67〉向陽閣 有馬温泉 〈68〉GH商会 函館市湯の川 〈69〉梶原商店 函館市 〈70〉高岡民芸 室蘭店 〈71〉登別パークホテル 株式会社福屋観光 〈72〉北海道物産センター 小樽店、舶来おたる

株式会社福屋観光 〈73〉北海道物産センター 日高店 株式会社福屋観光 〈74〉北海道物産センター 函館店 漁火市場 〈75〉旭川パークホテル 〈76〉レストラン古潭荘 旭川市 〈77〉北川商店 層雲峡 〈78〉ロックサイド 層雲峡

〈79〉温根湯民芸舎石北店 永野栄 オホーツク観光 〈80〉本店 美幌市常呂 オホーツク北海道 〈81〉キツネ村 北海道常呂郡 〈82〉オホーツク日高 ウエスタンファーム 〈83〉オホーツク函館 海峡市場 〈84〉北海道物産 美幌峠

〈85〉目黒民芸 美幌 〈86〉タケダ観光 網走駅前 〈87〉網走観光サービス 〈88〉ゴールデンハウス 知床 〈89〉知床パークホテル 〈90〉知床プリンスホテ ル

〈91〉酋長の家 知床 〈92〉石井栄泉堂 川湯温泉 ホテルニュー湯の 〈93〉閣英和商事 川湯温泉 〈94〉川湯グランドホテ ル 〈95〉弟子屈町振興公社 硫黄山 〈96〉民芸白つつじ 川湯温泉

〈97〉弟子屈観光センター 弟子屈町 〈98〉万代観光株式会社 川湯温泉 〈99〉長井商店 阿寒湖畔 〈100〉歓光堂 阿寒湖畔 〈101〉有限会社蔵根屋 阿寒湖畔 〈102〉阿寒観光物産館 阿寒湖畔

〈103〉グランマルシュ 阿寒湖畔 〈104〉藤沢民芸店 阿寒湖畔 〈105〉阿寒ビューホテル 阿寒湖畔 〈106〉竜門パーク 日高市 〈107〉足寄観光ドライブ イン 足寄郡 グランドホテル雨 〈108〉宮館 十勝川温泉

21 定山渓第一ホテル 礼幌市定山渓温泉

22 定山渓物産館 札幌市定山渓温泉

23 おみやげの店こぶしや 札幌市中央区

有眼会社清野クラフト

24 キティランド 大阪梅田

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